会社員 小林一匡さん
今年5月1日未明、同い年の妻が永眠しました。
料理研究家の舘野(たての)真知子といいます。約10年間の闘病の末に旅立ったのは、神奈川県葉山町にある僕らの自宅でした。その晩、近くに住む妻の親友が訪ねてきて「今夜は私が付きそうから」と、危篤が続いて疲れていた僕を休ませてくれたんです。その言葉に甘えてリビングで爪を切っていると、寝室に呼ばれて、ほんの少し前に妻が旅立ったことを知りました。妻の人生も、僕が寄り添う日々も終わったと思うと、力が抜けました。その後、眠っているように穏やかな顔の妻に向かって、「今までお疲れ様。ありがとう」と心の中で語りかけました。
自然豊かな葉山の古い平屋に二人で引っ越したのは4年前です。真知子は仕事場でもあるキッチンを自分が使いやすいように整え、ここで数々のレシピを考案し、テレビや雑誌などで発信していました。ここに住み始めてからは、とにかく「おいしいものを作って食べさせたい」の一心で突っ走っていた。僕も都心の職場に通う合間や休日、庭に畑を作って野菜を育て始め、収穫すると妻が料理し、親しい友人たちを招いて振る舞いました。
真知子は亡くなる直前まで…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル